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片眼の猿 [小説]

道尾秀介のミステリー、ストーリーは読みやすくわかりやすいが…課題となる事件よりもその前後の中に面白みというか人間模様というか、本当の物語があるような小説だった。言葉足らずの説明で、ちょっとした引っ掛かりがある説明にことごとく騙されて最後に種明かしがやってくる。これはカラスの親指やカエルの小指につながる道尾秀介らしさなのかもしれない。目に見えるものではないものを信じると言えばいいのだろうが、種明かしされた探偵事務所に果たしてどんな依頼人が来るのだろうかとも考えてしまう。
読み終えて、探偵としての物語はあっさりさっぱりだったなぁと振り返る。
こうやって書いておきながら、いろんな角度から楽しめる小説だった。ドロドロはなく、勘違いばかりの物語。
片眼の猿の説明はなんとも切ないものでした。


片眼の猿―One-eyed monkeys―

片眼の猿―One-eyed monkeys―

  • 作者: 道尾秀介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/05/17
  • メディア: Kindle版






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リボルバー [小説]

原田マハの素敵な小説。
ゴッホが自殺を図ったリボルバーかもしれないリボルバーがオークションに出品された。
そんな事実のかけらから、その先にこれだけの物語を見つけるとすればさすがである。
ゴッホにもゴーギャンにも詳しくもなければ知識もない僕が読み進めながら途中うとうとしてしまうこともありはしたものの、やっぱり最後まで読み切って、こんなにうまく史実からはみ出した物語を書けることがうらやましくて仕方ない。
凡人にとって何気ない日常のひとかけらは、天才には芸術のスタートとなるのだろう。
原田マハが今回はリボルバーを元に物語を書いたように、ゴッホやゴーギャンは風景や向日葵、人や教会を見て、それをアートに変えたんだろうと思うと、これまでは何の興味もなかった絵が少しは理解できるかもと勝手に思い込んでいる自分がいる。きっと僕が見たところでその絵のすごさはわからないのだが、この小説の面白さはしっかりと伝わった。
歴史を想像するというのは、こうやって物語にした時に、新しい歴史を創造したことになるんだろうと思う。実際にオークションで落札されたリボルバーはもっとすごい真実を知っているのかもしれないと思うと夢が膨らんだ。





リボルバー (幻冬舎単行本)

リボルバー (幻冬舎単行本)

  • 作者: 原田マハ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2021/05/25
  • メディア: Kindle版



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ハレルヤ! [小説]

重松清の小説。本文中にもあるけど時代背景のしっかりしたというか、日にちが入った内容。忌野清志郎が亡くなったことをスタートに昔のバンド仲間がバンドを解散してからの、それぞれのこれまでを持ち寄りながら、覗き見しながら、集まっていく物語。途中に重松自身の言葉が登場して時代を語りだすところが重松清らしい。なんとなくイメージできるし、なんとなく全部を物語にしない。それぞれの言葉の多くは語られてはいない言葉だし、その回想の中にこそ重松小説のらしさと、共感できる部分だと思う。まさにレコードのB面にうつるというのが今の自分にぴったりで、登場人物の心のつぶやきが僕の心にも染み込んでくるから不思議だ。
別に僕が昔、音楽をやっていたわけじゃないし、むしろ音楽とは無縁の人生だった。それでも音楽が僕の中では違うものに置き換わり、自分の中の回路を揺さぶってくるから、面白い。重松の作品は丸く収まることを嫌うし、むしろ自分で想像しろよという終わり方が多い。だから、読んで本を閉じてから、いや、もう残り数ページのあたりから、いろいろな回想が始まってしまう。
僕も明日どうなるかわからない。まぁ、小説みたいにはいかないがそれでも自分の物語を生きる。そんなことを考えることが、くすぐったくも感じるのが、読書後のひとときだった。





ハレルヤ! (新潮文庫)

ハレルヤ! (新潮文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/06/24
  • メディア: 文庫



追記

この小説を読んだすぐ後に、アマゾンプライムでなんとなく「殿、利息でござる」を見ていた。
すると、その最後に「上を向いて歩こう」RCセクションが流れてきたのだ。人生にはこういう偶然があるんだなぁと感慨深い。普段なら何気なく素通りする中に、ふと気づくと意外な偶然がある。そんなことに気づかせてもらえたことがなんとなくうれしかった。

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小説8050 [小説]

新聞の紙面広告で見て、図書館の方に話をしたところ、気にして頂いていて、蔵書に加えられたときに声をかけていただいた。
さて、8050問題。今回の小説では中が高時代にいじめられて引きこもっている20歳の少年とその家族に関する物語である。近所の人が80歳の親が亡くなり50歳で仕事もしない子どもがその家から連れ出されるところから、明日の我が家と重ねて、7年前のいじめについて裁判を起こすという物語であった。それにしても父親の歯科医は本当に自分勝手で後先を考えずに激高する嫌なオヤジである。そんな親父だから裁判に持っていくことができたのかもしれないが…なんでそこでそうなるかなぁと読んでいて何度も舌打ちをした。でも、他人の物語を読んでいるのと、自分の家族で起こることはやはり違うのだろうとも思う。自分だっていざ子どものこととなると、どこか冷静さを失うことがある。
小説としては、後半の流れは一気に加速するという感じがした。あと、これだけのページで物語がちゃんと結末を迎えるのかと思いながら、読んでいったが、なんとか歪さはあるが丸く収まったという感じだった。いじめという題材と8050という問題を絡めながら、進められていく話は読んでいて不快な部分やスッキリしないことが多かった。
 それにしても80歳の親と50歳の子どもは、どんな関係が正解なのだろうと考えてしまう。今回の主人公である青年は最後に50ではまだ30年あるから大丈夫だと言った。ふと考えてみれば、私もあと十年で8050を迎える。今は自分も親となり親に怒られることもありながらもなんとか生活をしているが、10年後にどうなっているかはわからない。そして、私が80になったときに、またどうなるのか…。
 未来のことを考えると不安も多いが、やっぱり今日一日一日を前向きに生きていくしかないなぁと思うのだった。ん?小説を読んだ感想が自分に重ねすぎる今日この頃。








小説8050

小説8050

  • 作者: 林真理子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/04/28
  • メディア: Kindle版



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カエルの小指 [小説]

道尾秀介のカラスの親指を読んだのはいつだったかなぁ。紹介してくれた人のあらすじが、本編とは全く違って読んだあとに文句を言ったらそういう本だったでしょ…と言われたのはよく覚えているが、その物語の内容はほとんど覚えてない。
そして、今回はその続編。何回かカラスの親指の回想が出てくるけれど、やっぱり思い出せないまま読んでみて思ったのは、ウソばかりの物語だなぁということ。読んでいて何回も騙された。詐欺師とはこうも上手く人を騙すのかなぁ…すると道尾秀介も詐欺師の一人なんだろうか。小説家と言うのは案外そうなのかもしれないと妙に納得してる自分がいる。
詐欺師から足を洗った男の元にかつて助けた女性のこともが現れる。そして母を自殺に追い込んだ詐欺師を探すために協力してほしいと言うところから物語は始まる。あとは何がホントで何が嘘かは最後まで読まなきゃわからない。
寝られなくなる物語であることは間違いない。そして、答え合わせをしながらも、大事なところはご想像にお任せしますというような感じである。
そうか、それでカエルの小指かと言うものだ。
なかなか面白い物語で、カラスの親指を読んだ頃を思い出しながら、やっぱり最初に書いたエピソードしか思い出せなかった(笑)





カエルの小指

カエルの小指

  • 出版社/メーカー: Audible Studios
  • 発売日: 2020/04/17
  • メディア: Audible版



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11文字の殺人 [小説]

東野圭吾の作品です。
割と新しい小説だと思って、手を取りました。
なんとなく、記憶のどこかで引っかかる作品でした。
こういう小説はどこかでドラマに使われていたりするのかなぁと思いながら、それでも最後まですらすらと読めてしまいます。
そして、読み終わって1990年に発行された小説の新装版だと知りました。
きっと、遠い昔に読んだことがあるのでしょう。
まぁ、まったくストーリーを覚えていなかったので、初めて読むのと同じ感覚でした。
ストーリーとしては、よく出来すぎている作品で…そうはならんでしょうと思うところもありましたが、それでも結末に少し驚きのような物足らなさのようなものを感じながら夏のひと時を過ごすことができた。時間のトリックは読んでいる中でなんとなく感じる書き方がされていたので…ただ答え合わせをしてみる時に、出てくる情報があるので、結局は読み手にはわからないようで違和感だけを残していたのだと思います。
とっても読みやすいミステリー。





11文字の殺人 新装版 (光文社文庫)

11文字の殺人 新装版 (光文社文庫)

  • 作者: 圭吾, 東野
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/07/08
  • メディア: ハードカバー



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絶叫 [小説]

友人に勧められて読んだ本。
とーっても重いミステリー。
600ページを超える長編小説でしたが、苦にならず読み進めることができたのは、物語のテンポがとても良い。数人の視点から一つのことを振り返っていくストーリーはなんとなく湊かなえの作品を思い出すし、事件を追う刑事の人間模様や加害者である女性の重なり合うような人生観がとても面白い。内容はすごくグロテスクで悲惨で、かわいそうな部分もたくさんあるが、どこかで割り切れない納得できない思いを抱えながらもそういう人生を選んでいくのもわかるような気がする。
結末まで読んで、少し安堵している自分がいる。過去を過去として、新しい未来の中に違う人生を歩むことができるのだろうか、不謹慎にもそんなことを考えてしまう。
人生をやり直すということが、今回の小説のようなギリギリの深い部分ではなく、もっと浅い部分で過去を背負ないながらもできるくらいのところであがいていたいなぁと思うのでした。





絶叫 (光文社文庫)

絶叫 (光文社文庫)

  • 作者: 葉真中 顕
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/04/28
  • メディア: Kindle版



読み終わったので、紹介してくれた人に報告がてら感想を言うと、自分では気づかなかったもう秘湯tのトリックをおしえてくれた。それを聞いて、小説の最後の方にあったいくつかの言葉がよみがえる。
そして、すっかり騙されている自分に気づく。
何人かの視点から事件が語られるというのはこういうことなのかと…。
それにしても一人では気づかないことを、誰からと一緒に読んだからもう一回楽しめる。こういう読書もいいものだなぁ。

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